この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。
第弐話 【出会い】
前回のあらすじ
神社の石段から転がり落ちたはずの翔は、何故か草原の真ん中で倒れていた。
目を覚ました翔に狼たちが襲いかかって来たが、間一髪、通りかかった『黄色い生物』に助けられた。
黄色い生物
翔は狼から助けてくれた『黄色い生物』に、これまでの経緯を話していた。
「不思議なこともあるオパねぇ〜でもボクには関係ないオパ。忙しいからボクは帰るオパ。日が暮れる前に帰るオパよ〜」
そう言うと、再びその『黄色い生物』は立ち去ろうとした。
「あ、待って下さいよ〜」
このまま見捨てられたら、また狼たちに襲われるかも知れない。そう思った翔は、咄嗟にその『黄色い生物』にしがみ付いた。
「な、何オパ!? は、放すオパ! ボクには関係ないオパ〜!!」
翔を振りほどこうと抵抗する『黄色い生物』。
「そんなこと言わないで、助けてくださいよ〜」
翔は振りほどかれまいと、『黄色い生物』に覆い被さった。
「は、放すオパ!!」
「いやです!!」
「は〜な〜す〜オパ〜」
「い〜や〜で〜す〜」
「ううぅぅぅ……」
翔と『黄色い生物』との死闘は、しばらく続いた。
「わ、分かったから、降りるオパ……お、重いオパ……」
何とか『黄色い生物』の逃走を阻止できたようだ。
「ハァハァ、潰されるかと思ったオパ……」
「す、すみません」
「仕方がないオパ。ボクじゃどうしようもないから、ご主人様に相談してみるオパ」
「ご主人様?―― この『黄色い生物』は誰かのペットなのか? そう言えばさっき、お使いがどうとか言ってたような……――」
「ボクについて来るオパ」
そう言うと『黄色い生物』は歩き出した。
「あ、まって!!」
翔はこの『黄色い生物』の案内で、『ご主人様』のところへ向かう事になった。
ご主人様
歩きながら、翔はこの『黄色い生物』から話しを聞いていた。
翔を助けてくれたこの『黄色い生物』は『オパオパ』と言う名前で、『神獣』と呼ばれる、この世界の生き物だそうだ。
黄色い生……もとい、オパオパは『ミンミン』と言う種類の神獣で、他にも色々な種類の神獣がいるらしい。ただ、オパオパの様に人の言葉をしゃべる神獣は少ない様だが、決して珍しい事でもないようだ。
しばらく歩いていると、丘の上に一軒の家が建っているのが見えた。どうやらそれが目的地らしい。
「ただいまオパ〜」
オパオパは入り口の戸を勢いよく開けた。
「おかえり〜。遅かったじゃない、何してたの?」
中から女性の声が聞こえた。声からすると結構若い感じだが、翔よりはずっと年上のようだ。まだ人間なのかも分からないのだが。
翔がそんなことを考えていると、奥の部屋から黒地に赤い龍の刺繍のチャイナ服風の武闘着を着た女性が現れた。
「あら、その子は?」
赤いリボンで髪を後ろに束ねたその女性は、翔に気付いたようだ。
「道で拾ったオパ」
「拾ったって……僕は石ころじゃないんだけど……」
翔は、後ろから蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られたが、グッと堪えた。
「は、はじめまして。『輝馬 翔』と言います。狼に襲われたところを、オパオパさんに助けていただいて……」
そう翔が言うと、その女性は少し表情を曇らせ、オパオパを手招きした。
「オパオパ、ちょっとこっち」
「何オパ?」
その女性とオパオパは翔に背を向け、ひそひそと話し始めた。
「あんた、また変なもの拾ってきて……」
「仕方がないオパ。連れて来ないと潰されるとこだったオパ」
どうやらあまり翔を歓迎していないようである。
「まぁ、ともかく、そこじゃなんだから、入りなさいよ」
女性は翔の方を振り返ると、そう言って立ち上がった。何とか話は聞いてもらえるようだ。
「あ、はい。失礼します」
そうして翔は、奥の部屋に通された。
「で、わたしに何か聞きたいことでも?」
食卓を挟み僕の正面に座った女性は、そう切り出した。翔はこれまでの経緯を話し出した。
「ふ〜ん。不思議なこともあるもんねぇ……つまり、あんたはその『東京』って別の世界から来たってこと?」
「はぁ、状況から言うと、そう言う事に……」
どうも女性は、翔の話を納得していないようだ。まぁ、納得しろと言う方に無理があるのだが。
「で、わたしにそれを信じろと?」
女性は左手で頬杖をつき翔の方を見ていた。オパオパは女性の横に座り、何か木の実のようなものをかじっている。
「ですよねぇ……」
「あんたが嘘を言ってるようには見えないけど、そんな突拍子もないこと『はいそうですか』って、納得はできないわねぇ……」
確かにその通りだ。当の本人でさえ今の状況を全て理解しているわけではない。翔は返す言葉も無く黙り込んでしまった。
「やっぱりもとの場所に捨てて来るオパ?」
「……」
翔の表情を見かねたのか、女性は表情を和らげた。
「……しょうがないなぁ……ばぁちゃんに相談してみるかぁ……」
女性はそう言うと、両手を頭の後ろに組み背伸びをした。
「今日はもうすぐ日が暮れるから、明日相談するとして、とりあえず今日はここに泊まっていきなさい」
「え? いいんですか?」
「このまま放り出してもいいけど、狼にでも食べられたら目覚めが悪いし、あんたも、そのつもりでここに来たんでしょ?」
あわよくばとは思ってはいた翔だが、こうもストレートに突っ込まれると、返す言葉が無い。
「そうだ、まだ自己紹介してなかったわね。わたしの名前は『シャオリン』。よろしくね」
そう言うと、女性はにっこり微笑んだ。
夢の声
その夜、翔は夢を見た。
真っ暗な闇の中、遠くに光が見える。
光は徐々に大きくなり、ぼんやりと中に人影らしきものが見えた。
……カ……ケ……ル……
翔を呼ぶ声がする。あの時と同じ声だ。
光はさらに大きくなっていく。
……カ……ケ……ル……
「君は……誰?」
翔はその光の中に見える人影に、そう問いかけた……
「ん……んん……」
翔は目を覚ました。
窓から明るい光が差し込み、翔の顔を照らしていた。
外から小鳥の鳴く声が聞こえる。
「夢か……」
何故か期待を裏切られたような感覚を、翔は覚えた。
「あら、起きたわね」
部屋の前を通りかかったシャオリンが、翔に声をかけた。
「あ、おはようございます」
「裏に井戸があるから、顔洗ってらっしゃい。もうちょっとしたら出発するから」
「出発?」
「昨日言ったでしょ? 相談しに行くって」
昨日の緊張から開放されたせいか、翔はすっかり忘れていた。
「あぁ! そうでしたね。すみません……」
翔はそう言うと、シャオリンから手拭を受け取り、裏の井戸に向かった。
顔を洗いながら翔は夢のことを思い出していた。
「何だったんだろう……あの夢……それにあの声……」
気になる。あの声と言い、何か『ここ』へ来たことと関係があるのだろうか……それともただの幻想なのだろうか……そんなモヤモヤを振り払うように、翔は手にすくった水を勢い良く顔に叩き付けた。
それからしばらくして、身支度を済ませた翔たちは、玄勃派の街に向かって出発した。
【次回予告】
オパオパのご主人『シャオリン』さんに出会った僕は、玄勃派長に会うために街へやってきた。
玄勃派長さんってどんな人だろう? ちゃんと相談にのってくれるだろうか……
次回 第参話 【玄勃派】
ちょっ、何でわたしが!?