この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。
第参話 【玄勃派】
前回のあらすじ
狼に襲われたところを『オパオパ』と言う神獣に助けられた翔は、オパオパのご主人様『シャオリン』と出会う。
翔の話を納得はしていない様子のシャオリンだが、とりあえず力になってくれるであろう、『玄勃派長』に相談してみることとなった。
江湖
玄勃派に向かう途中、翔は色々とこの世界のことをシャオリンに聞いていた。
この世界は『江湖』と呼ばれる世界で、今いるこの一帯は『中原』と呼ばれる場所らしい。
正派と邪派と言う二つの勢力が対立していて、かつては大きな戦争が起こったと言う。その結果、両勢力ともに大勢の犠牲者がでて、これから行く玄勃派が中心となり、二つの勢力の間に立つことで、今日の均衡を保っているらしい。
ただそれも昔の話で、戦後に生まれた若い世代は、そんなしがらみも無く、単に武術と己を鍛えるために、どちらかの勢力を志願しているようだ。
現にこれから向かう玄勃派の街は中立地帯で、正派も邪派もなく人々が行き交っていると言う。
「ところで、シャオリンさんって幾つなんですか?」
「歳? 幾つに見える?」
その返答が一番困る。パッと見た感じ若く見えても、女性は化粧で全く別人になってしまう。見かけに騙されてはいけない。
「んー見た感じ二十代に見えるんですけど……」
翔はそう答えた。なんともアバウトな返事だろう。
「あら、アリガト♪」
手に持った木の枝を振りながら、上機嫌のシャオリン。どうやら実年齢はもっと上のようだ。
「ご主人様は若作りだけど、こう見えて実は三十ろ……むぎゅぅぅぅぅ」
「オパオパちゃん? なんか言ったかなぁ?」
そう言いながらシャオリンは、オパオパの顔を両手で強く挟み込んでいた。
「いいぇぬぁにむぉいっとぅぇむぁすぇん……」
「あははは」
しばらく歩くと、川の向こうに塀に囲まれた大きな街が現れた。
「あれが玄勃派の街ですかぁー。大きい街ですね」
街の周囲を高い塀が取り囲んでいるので、街の様子は良くわからないが、高い塔や大きな建物の屋根が見え、所々湯気が立ち上っているのが確認できる。
街に近づくにつれ、活気のある掛け声や街を行き交う人々の声が聞こえてきた。街の中は相当賑わっているようだ。
翔たちは正面の大きな門ではなく、ちょっと小さめの入り口から街に入った。路地を抜け大通りに出ると、辺りは行き交う人々でごった返していた。
通りの横には、野菜や魚介類などの食材から、宝石のような石や武器と言った宝飾品、、はたまた何に使うか分からない正体不明のものまで、さまざまな露店が並んでいる。
翔は露店に目を奪われながらも、シャオリンたちの後について大通りを歩いて行った。
大通りを少し歩くと、階段を下りたところに大きな広場があり、その真ん中に高い塔が立っていた。どうやら、シャオリンたちはそこに向かっている様だった。
玄勃派長
「ばぁちゃんいる〜?」
シャオリンは入り口の扉を勢い良く開けた。
部屋の中を覗くと、そこには沢山の本や書類が並んだ本棚がいくつもあり、部屋の中央にはしっかりとした造りの大きな机があった。机の上には沢山の書類が積んである。だが、辺りを見回しても誰もいない。
「誰も居ませんねぇ……」
「あれ? この時間なら居るはずなんだけどなぁ……ばぁちゃんいないの〜」
すると奥にある階段の上から声が聞こえた。
「なんだい、朝っぱらから騒々しいねぇ全く。そんな大きな声で呼ばなくても聞こえてるよ」
「なんだ、いるなら返事してよ」
「あんたが来ると、ろくでもないことが起きるからねぇ」
そう言いながら、白と赤の着物を着た老婆が階段を下りてきた。
老婆と言ってもよくある漫画のように腰が曲がった所謂『妖怪おばば』ではなく、背筋がぴんと伸び、玄勃派を束ねる派長に相応しい威厳を放っていた。
「人を疫病神みたいに言わないでよ」
シャオリンは不機嫌そうに口をへの字に曲げた。
「そんなことより、その子かい? 他所から来たって言うのは」
「あれ? この子知ってるの?」
「昨日、オパオパと見慣れない格好をした若い男が、一緒に歩いてるのを見かけたって者がいてねぇ。そろそろ来る頃だと思ってたんだがね」
そう話しながら、玄勃派長は机の方に歩いて行き、奥の椅子に腰を下ろした。
「な〜んだ。なら話は早いわね」
「立ち話もなんだ、そこに座りな。話を聞こうじゃないかい」
「ほらっ」
シャオリンは翔の背中を軽く押した。
「あ、はい。」
翔は机の前の椅子に座ると、昨日の出来事を玄勃派長に話し始めた。
シャオリンは入り口近くの本棚にもたれかかり、オパオパは脇に置いてあった台の上に座って、翔の方を見ている。
話の最中、玄勃派長は微動だにせず、じっと翔の目を見つめ続けていた。翔は緊張しながらも、ありのままに話した。
翔が話し終わると、玄勃派長は背もたれにもたれかかった。
「うむ。大体の経緯は分かったが、そんな不思議なことがあるとはねぇ……」
「何かご存知ありませんか?」
「と、言われてもねぇ……」
「やっぱり、ばぁちゃんでもダメか……」
シャオリンも玄勃派長に少し期待していた様だ。
「いいだろう。この件は私が預かろう」
「ほ、本当ですか?」
「だが、あまり期待はせぬようにな。何せ常識では考えられぬことが起きているのだからねぇ。とりあえず、何か情報が入るまでは玄勃派に留まるといい」
そう言うと、玄勃派長は立ち上がった。
「ありがとうございます!!」
翔も立ち上がり、深々と玄勃派長に頭を下げた。
「それじゃぁ、後は頼んだよ、シャオリン」
「は〜い。って、わたし!?」
玄勃派長の言葉に、驚くシャオリン。振り向いた勢いで本棚が揺れている。
「他に誰がいるんだい?」
「だって、いま自分で預かるって……」
シャオリンは必死に食い下がっている。
「ここは見ての通り手狭だし、私は忙しいのでな。ましてや若い殿方を泊めるわけにも行かん」
「だったら、うちだって……」
「お前さんのところなら、出てった居候の部屋が空いてるだろ? 一人や二人増えたところでどうにでもなるだろう?」
「一応、わたしも女の一人暮らしなんですけど?」
シャオリンは何とかこの事態を回避したい様だ。
「何か文句あるかい?」
玄勃派長はシャオリンを睨みつけた。
「うぅ……何でもありません……」
シャオリンは、玄勃派長の目力に屈した。
「改めて、よろしくお願いします! シャオリンさん!!」
「うぅ……しょうがないなぁ……」
こうして翔は、シャオリンの家に厄介になる事が決まった。
【次回予告】
玄勃派長さんの協力を取り付けた僕は、シャオリンさんの勧めで服を買うことに。
やっぱりこの学生服じゃ目立つよなぁ〜
次回 第肆話 【街の賑わい】
この料理美味しいけど、これって……