この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。
第肆話 【街の賑わい】
前回のあらすじ
玄勃派長に相談するため、翔たちは玄勃派の街にやってきていた。
無事、玄勃派長の協力を得ることが出来た翔は、半ば強引にシャオリンの家に厄介になる事になった。
職人の性
玄勃派長の協力を取り付けた翔たちは、塔の外に出てきた。
「うぅぅ……」
シャオリンはガックリ肩を落としていた。
「すみません……ご迷惑をおかけして……」
「まぁいいわ、これも何かの縁だし」
右手で頭をかきながら、シャオリンはそう言った。
「ところで……その格好、目立つわねぇ……」
「え?」
通りを横切る人々が翔の方をチラチラ見ている。翔が着ているのは普通の学生服だが、この世界では見たことも無い服であるに違いない。
「よし、服を買いましょう。ついて来て♪」
そう言うと、シャオリンは歩き出した。
「あ、でも僕この世界のお金持ってませんよ?」
「あぁ、それなら心配要らないわよ。たぶん♪」
「『たぶん』って?」
不安を抱きつつも、翔はシャオリンの後を追いかけた。
広場から延びる路地を進んでいくと、大きな建物の反対側に、こじんまりとした衣料品店があった。
「おばちゃ〜ん、こんにちわ〜」
「あら、シャオリンさんいらっしゃい」
「こんにちはオパ♪」
「はい、オパオパちゃんもいらっしゃい」
店の奥に年配の女性の姿があった。この店のご主人だろうか。その女性は、翔の存在に気付いたようだ。
「あら、お連れさん?」
「うん。ちょっとこの子に服を選んであげて欲しいんだけど」
「よろしくお願いします」
翔は軽く会釈をした。
「おや、見かけない子だねぇ……ん!?」
女性は翔の姿を見て驚いた様子で、ものすごい勢いで翔に迫って行った。
「ど、どうかしました!?」
「その服、どこで手に入れたんだい!?」
「え?」
「ほぅ、これは……縫製もしっかりしてるし、見たこと無い生地だねぇ……」
そう言いながら、どこから出したか分からない拡大鏡を片手に、翔の服を叩いたり、引っ張ったりし始めた。
「あ、ちょ、ちょっと……」
「あ、あぁごめんなさいね。職業柄仕立ての良い服を見ると、つい我を忘れてしてしまってねぇ。オホホホッ」
あまりの行動に、翔は呆れてしまった。
「レンロンさんは中原一の鍼工さんで、どんな服でも作ってしまう凄い人オパ。正派や邪派の服のほとんどを、レンロンさんやレンロンさんのお弟子さんが作ってるオパ」
「へぇ〜凄い方なんですねぇ」
「やだよぉ。そんな大した事じゃないよっ♪オホホホッ。あぁそうそう、服を選んで欲しいんだったわね。お客さんなら……これ何かどうかしらね」
レンロンはそう言うと、青い上着と紺のズボンを持って来た。
「ふ〜ん。いいんじゃない?」
シャオリンはその服をチラッと見て、そう言った。
「そこに小部屋があるから、着替えてみたらどうだい?」
そう言われ翔は、試着室らしい小部屋に入った。
…………着替え中…………
…………着替え中…………
…………着替え中…………
「どうでしょう? どんな感じですか?」
「へぇ〜結構似合うじゃない」
「いいんじゃないオパ?」
「そうですか? なんか照れるなぁ」
お世辞でもそう言って貰えるとうれしい。
「どうする? それにする?」
「あ、はい」
翔は他の服も見てみたい気もしたが、折角選んでもらった衣装だし、この服にすることにした。
「おばちゃん、それいくら?」
「え〜と、パチパチパチっと、締めて2万両……」
「結構するんですねぇ」
と言ってみたものの、この世界のお金の価値など翔は知らないのだが。
「……っと言いたいところだけど……タダでいいわよ」
「タダ!?」
「ただし、お客さんが着ていたその服を、二、三日私に預けてくれないかねぇ? そうしてくれたら、その服はタダで持って行って構わないよ」
「ええ!?」
「そんな珍しい服、滅多に見れないからねぇ。どうやって作ってあるのか、ゆっくり見てみたいんだよ。どうだい? 何も切り刻もうってわけじゃないから安心しとくれ♪」
切り刻むと言う言葉に不安を隠しきれない翔。
「いいんじゃない? タダでくれるって言うんだし、ちゃんと返してくれるんだから」
そう言うシャオリンは、店に置いてある服を見ていて、翔の方を見ていない。
「レンロンさんは誰かと違って約束はちゃんと守る人でオパ」
「だめかねぇ?」
レンロンは目をキラキラさせながら、祈るように翔を見つめている。
「わ、分かりました、みなさんがそう言うのなら……」
「よし、商談成立だね♪」
そう言うとレンロンは、よほどうれしかったのか着替え用にもう一着オマケで付けてくれた。
「三日したらちゃんと返すから、また来ておくれよ」
レンロンはそう言って、店を出る翔たちを見送った。
「ほら、何とかなったでしょ?♪」
シャオリンは、ニコニコしながら翔の方を振り返った。
「もしかしてシャオリンさん、こうなること予想してました?」
「まぁね♪」
この人にだけは弱みを見せてはいけないと、翔は悟った。
店を出ると、通りの反対側からいい匂いが漂って来た。
「ぐぅうぅぅぅ……」
思わず腹の虫が鳴いてしまう翔。そう言えば、翔は昨日から何も食べていなのだった。
「もうすぐお昼ね。何か食べていきましょうか」
翔のお腹が鳴ったのが聞こえたのかどうかは分からないが、シャオリンはそう言うと、道の反対側にある大きな建物に向かって歩き始めた。
日替わり定食
建物は宿屋らしく、大きな食堂が併設されていた。食堂は宿泊客以外でも自由に利用でき、お昼時になると人で一杯になるそうだ。
「いらっしゃいませ〜」
食堂に入ると、活気のある明るい女性たちの声が聞こえてきた。
「こんちゃ♪」
シャオリンは、配膳をしていた一人の女性に声を掛けた。
「シャオリンさんいらっしゃい。奥へどうぞ〜♪」
女性の案内で翔たちは奥の席に着いた。
「あら、シャオリンさんが殿方と一緒なんて珍しい。隅に置けないですねぇ♪」
女性は一緒にいる翔を見て、シャオリンをからかった。
「なわけ無いでしょ。ちょっと成り行きでねぇ……」
慌てて翔は女性に挨拶をする。
「『輝馬 翔』と言います。訳あって、シャオリンさんのところにご厄介になることになりました」
「あら、ご丁寧に。ここの女将の『リァンホン』です。どうぞご贔屓に♪」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
翔の動揺も気にせず、シャオリンはお品書きを見はじめた。
「さて、何食べよっかぁ……カケルは何がいい?」
そう言うと、お品書きを翔に差し出した。
お品書きには中国語のような漢字らしき文字が書かれていたが、微妙に違って良く分からない。
「え〜と……お品書き見ても良くわからないから、シャオリンさん選んでもらっていいですか?」
翔はシャオリンにお品書きを渡した。
「そうねぇ……なら、日替わり定食二つと……後これ。オパオパは、いつものやつでいい?」
「オパ!」
「はい畏まりました。しばらくお待ちくださいね。♪」
そう言うと、リァンホンは厨房の方へ歩いて行った。
「それにしても大きな宿屋ですねぇ。こんな大きな食堂もあるなんて。それにお客さんも一杯だし」
翔は広い店内を見渡した。お昼にはまだ少し時間があるようだったが、食堂の席は8割ほど埋まっていた。
中庭に面した場所には売店のようなものもあり、お土産品だろうか、お札や宝石のような石が、いくつも置いてあるのが見える。
「玄勃派は正邪関係なく人が行き来する場所だから、儲かってはいるんだろうけど……」
「けど?」
キョロキョロしている翔を眺めながらお茶をすすっていたシャオリンが、急に顔を近づけ、小声で話し出した。
「ここだけの話、実はあそこで売ってる石や御札がインチキで、安物を高額で売ってぼったくってるって噂が……」
「ええ??」
その時、シャオリンの背後から殺気を感じた。
「シャオリンさん、聞こえてますよ?」
注文した料理を運んできたリァンホンが、眉毛をぴくぴくさせながら立っていた。
「あら? 聞こえてた?」
シャオリンは舌を出しながら翔の方を見た。
「はい、ご注文の『日替わり定食』と『牛肉と野菜の炒め物』。あとオパオパちゃんは『お米と小麦のピリ辛炒め』ね」
「待ってたオパ♪」
「そんな根も葉もない噂吹き込むのは、よしてくださいね。ちゃんと良いものも入ってるんですから」
リァンホンはそう言いながら、翔たちが注文したものをテキパキと配膳した。
「だって、いっつも防3や風ばっかりじゃない」
シャオリンも急須や湯飲みを置き直し、箸を配り始めた。
「それはシャオリンさんのくじ運が無いだけでしょ。ちゃんと出てますよ」
そう言い終わる頃には、食卓の上には綺麗に配膳された料理が並んでいた。
「女将さん、お愛想ここに置いとくよ〜」
「あ、は〜い。じゃぁごゆっくりお召し上がりくださな」
リァンホンはそう言い残し、他のお客の対応に向かった。
「何か気立ての良い女将さんですね」
「実際は、リァンホンのああ言う所で繁盛してるんだけどね……じゃ、食べよっか」
注文した『日替わり定食』は、雑穀米のご飯とトン汁のようなお味噌汁、鶏のから揚げらしいものに付け合せの野菜、それに漬物と、現代の定食と何ら変わらない印象だ。下手をするとこっちの方が豪華かも知れない。『牛肉と野菜の炒め物』は、ピーマン無し青椒肉絲と言った所だろうか。オパオパが頼んだ料理は……見なかった事にしよう……
「いっただきま〜す」
「モグモグ……う、うまい!!」
美味い。味噌汁は、肉は硬目でトン汁とはちょっと違うが、出汁が効いていて美味しい。特にから揚げは絶品。衣はカリッとしてるが、中はとても柔らかく、肉汁も溢れてくる。味も抜群に美味い。
「ここの料理は中原一おいしいって評判オパ♪」
この味なら、これだけ繁盛している理由も頷ける。
「どうですか? お味は?」
お客の応対を終え、リァンホンが翔たちのところに戻ってきた。
「凄くおいしいです。このお味噌汁の中のお肉って何ですか? 豚肉じゃないみたいだけど……」
「それは『野猪』のお肉ですよ」
「へぇ〜、猪ですか。初めて食べました。それと、この鶏のから揚げもおいしいですね」
するとオパオパが、ぼそっと呟いた。
「それ、鶏じゃないオパ」
「え?」
「それは『ガマ足』のから揚げですよ」
ガマ……その響きに翔はある生き物を想像していた。
「街に来る途中でピョンピョン跳んでたでしょ? あれよ、あれ」
から揚げを口に咥えながら、シャオリンが追い討ちを掛けるように言った。
「どうかされました?」
リァンホンは不思議そうに翔を見ている。
「いえ……急に食欲が……」
翔は、箸を持つ手が急に重くなったのを感じた。
【次回予告】
宿屋の食堂でお昼ご飯を食べていた僕たちは、事件に遭遇する。
シャオリンさんは放って置けばいいと言うが……
次回 第伍話 【白い髪の少年】
なんか面白い事になって来たわねぇ♪