この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。
第伍話 【白い髪の少年】
前回のあらすじ
玄勃派長の協力を得ることが出来た翔は、シャオリンの勧めで服を買うことに。
その後、空腹を満たすため、宿屋の食堂で昼食を食べていた。
白い髪の少年
翔は目の前に置かれた『から揚げ』と対峙していた。
食欲をそそるその香りと、肉汁溢れるその外観。そして口に入れた際の満足感。どれをとっても文句のつけようが無かった。その素材の名を聞くまでは……
食べれば間違いなく美味いのだ。しかし、翔の頭の中をピョンピョン飛び跳ねながら、『あの生き物』が横切っていく……
「ん? 食べないの? なら貰っちゃうわよぉ?♪」
シャオリンがニヤニヤしながら、翔に言った。
「……うぅぅ……」
「ごちそうさまでした♪」
「オパ♪」
「……完食してしまった……味も満足。お腹も満腹。なのに何だろう……この敗北感は……」
「はい。お粗末さまでした♪」
翔は、リァンホンの笑顔が何故か異常に眩しく感じた。
「なんだこれわぁぁぁ!!」
壁際にいた三人組の男達が突然声を上げた。周りの客が何事かとその声の方を振り向く。翔たちもその声の方を振り向くと、若い仲居が頭を下げているのが目に入った。
「何かしら? ちょっとごめんなさいね」
そう言うとリァンホンは、その仲居の方に足早に向かった。
「ここの店は、こんなものを客に出すのかぁ?」
「も、申し訳ございません。すぐにお取り替えを……」
「お客様、どうかされましたか?」
「あ、女将さん……」
リァンホンさんが話に割って入る。
「どうもこうも無いわ! これを見ろ!!」
そう言うと、男はリァンホンに徳利を突きつけた。リャンホンはその徳利を受け取ると、徳利の口に手をかざし、匂いを嗅いだ。
「これは!? 申し訳ございません。すぐに新しい物をお持ち致しますので……」
リァンホンはそう言うと、仲居に徳利を渡し、取り替えるように指示を出した。
「あぁん? あぁもういいわ。飯が不味くなったわ。行くぞみんな」
そう言うと三人組は立ち上がり、店の外へ出ようとした。
「あ、ちょっとお代を!!」
「なにぃ?」
責任感からなのか、単に空気が読めていないだけなのか、仲居が三人を引き止める。
「貴様! 客にそんなものを出しておきながら、金まで取ろうと言うのか?」
三人は仲居さんの方を振り向き、食って掛かる。
「いるのよねぇ……ああやって、難癖つけて代金踏み倒そうとする奴がさぁ……」
事態を静観していたシャオリンが呟いた。
「え? じゃあ……」
「あの徳利、自分たちで仕込んだんでしょ。たぶん」
翔は怒りを覚えた。
「なんて奴らだ! 僕、リァンホンさんに言って来ます!!」
立ち上がろうとする翔を、シャオリンが制止する。
「あぁ、放っといていいわよ。リァンホンだって気付いてるだろうし」
シャオリンはそう言うと、お茶をすすった。
「おい聞いたか皆の衆! この店は客におかしな物を出しておきながら、金まで取るそうだぞ!!」
店中に響く男の声。
「お客様困ります。そんな大きな声を出されては、他のお客様のご迷惑になりますから……分かりました。お代は結構ですので、今日のところはこれでお引取りを……」
そう言いながら、リァンホンさんは袖から何かを取り出し、三人に差し出そうとした。
「ちょっと待ちな!! 女将さん、そんな奴らに構うこたねぇぜ」
近くに座っていた白い髪の少年が声を上げた。
「おぅおぅ! さっきから聞いてりゃ、グダグダ抜かしやがって!」
「何だ貴様?」
「その酒の分はともかく、自分たちが飲み食いした分くらい払って行くのが、礼儀ってもんだろーが!!」
「なにぃ?」
「よっ! あんちゃん、よく言った!!」
客の一人が声を上げる。それと同時に、店のあちこちから三人に罵声が浴びせられた。場都が悪くなったのか、三人の顔が赤くなる。
「貴様! 俺たちに説教するとはいい度胸だな!!」
三人の内の一人が背中の刀を振りかざした。
「お、お客様!?」
驚くリャンホン。刀を見た他の客たちも、今までの罵声が嘘のように黙り込んでしまった。
「おぉ? やろぅってぇのか? いいぜ、その喧嘩買ってやるぜ!!」
そう言うと少年は、食卓に立て掛けてある布が巻かれた竿状の物に手を掛けた。
「ここじゃぁ皆に迷惑掛けちまう。表に出やがれ!」
そして少年と三人の男達は、店の外に出て行った。
「どうしましょう、シャオリンさん……早く止めないと……」
翔はシャオリンに助けを求めた。
「なんか面白くなってきたわねぇ♪」
「お、面白いって……」
「わたしたちも見に行くわよ♪」
そう言ってシャオリンは、四人の後を追いかけて行った。
「あ、ちょっと! シャオリンさ〜ん!!」
翔とオパオパも、シャオリンを追って店の外に出た。
邪派の剣士
外に出ると、三人の男達と少年が対峙していた。
さっきの刀の男の他は、剣と槍をそれぞれ手にしている。その四人を取り囲むように、少し離れて野次馬の人だかりが出来ていて、シャオリンは最前列に陣取り、腕組みをして少年の方を見ていた。リァンホンもその隣で、心配そうに様子を見ている。
翔は人だかりを掻き分け、シャオリンの隣に立った。
「大丈夫なんでしょうか……」
「見てれば分かるわよ♪」
翔の問いかけに対し、何故かニコニコしながらシャオリンはそう答えた。
「小僧! 覚悟は出来ているだろうな!!」
「あぁ、どっからでもかかって来な!!」
少年は構えることも無く、整然と立ったままだ。
「行くぞ!! でやあぁぁぁぁぁ!!」
男達は、一斉に少年に襲い掛かった。
「よっと♪」
しかし、少年は刀の攻撃をすり抜け、
「ほいっと♪」
剣の攻撃を竿のような物で払い、
「あらよっと♪」
槍の男の頭に手をつき、飛び越えた。
「どおした? それでお仕舞いか?」
鼻の下を指でこすりながら、少年は男達を挑発する。
「貴様ぁ! 馬鹿にしおってぇ!!」
少年に虚仮にされたのがよっぽど悔しいのだろう、三人の目が血走っていた。
「これでもくらえぇ!! 煉獄刀法! 黒砂滅渦!!」
「叫喚槍法! 紫龍襲槍!!」
「旋瓦破剣! 激風殺武!!」
男達の武器から閃光が走り、光の斬撃が少年を襲った。凄まじい爆風が巻き起こり、土煙が舞い上がった。
「うわぁっ」
翔は思わず目を瞑った。
「どうだ参ったか!! ……ん!?」
その時だった。土煙の中から少年が飛び出し、頭上高く飛び上がった。
「今度はこっちから行くぜ!!」
そう言うと、少年は竿状のものの布を空中で投げ捨てた。中からは、丸い太刀打ちを持ち、雲の様な形をした槍が姿を現した。
「刺伝槍式! 雷震槍法!!」
少年は槍を大きく振りかぶり、男達に目掛け叩き付けた。
「うわぁぁぁぁぁーーー」
槍から放たれた斬撃は地面に突き刺さり、爆煙と共に男達の体を吹き飛ばした。
「へんっ! どんなもんだい♪」
地面に降り立った少年は槍を肩に担ぎ、鼻の下をこすりながら、そう言った。
「す、すごい……」
翔は、始めて見る戦いに興奮していた。
「へぇ〜。結構やるじゃないあの子」
シャオリンは少年が勝つ事が初めから分かっていた様だが、その予想以上の強さに感心していた。
「お、おのぉれぇ……」
少年の斬撃に吹き飛ばされた三人が、再び立ち上がろうとしている。
「お、まだやろうってぇのか?」
少年はそう言うと、槍を構えた。
「お前達何をしている!!」
人だかりの奥から男性の声がした。
その声に人だかりが掃け、剣を腰に刺し黒い服を着た男性と、紫の服に青い氷のような飾りの杖を持った女性が入って来た。
「お、お頭様!?」
三人の男達は少し怯えるように、その男性を呼んだ。
「ん? なんだぁ?」
『お頭様』と呼ばれたその男性は、男達の脇を通りながら、横目で三人を睨みつけ、少年の前に足を運んだ。
「お前がやったのか?」
「あぁ、そうさ。あんたが親分か?」
男性は、もう一度三人の男達に目をやると、少年の方を再び向いた。
「何があったか知らぬが、門徒が傷つけられて、黙っている訳にも行くまい……」
「へんっ! 上等じゃねぇか……」
少年は唇を一舐めすると、男性に向かって槍を構えた。
「あの子……やられるわよ」
「え?」
さっきまで少年に感心していたシャオリンが、一転真剣な表情でそう呟いた。
【次回予告】
白い髪の少年の前に現れた邪派の剣士。その姿を見たシャオリンさんは、少年が負けると断言する。
次回 第陸話 【覇王級】
シャオリンさんって一体・・・