この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。
第陸話 【覇王級】
前回のあらすじ
翔たちは食事で立ち寄った宿屋で、難癖をつけて代金を踏み倒そうとする男達に遭遇にした。
男達の横行を見かねた白い髪の少年が声を上げ、意図も簡単に男達を蹴散らしてしまう。
だがそんな少年の前に、男達から『お頭様』と呼ばれる、邪派の剣士が現れた。
対決の行方
「あの子……やられるわよ」
さっきまで少年に感心していたシャオリンが、一転真剣な表情で呟いた。
「大丈夫ですよ。あの人、三人を簡単にやっつけちゃったじゃないですか」
「……だと、いいけどね……」
剣士は半身に構え、少年の方を向いていたが、一向に動く気配がない。
「来ないならこっちから行くぜ!!」
少年は剣士に突進し、槍を突き出した。しかしそれと同時に、剣士の姿が少年の視界から消えた。
「ど、どこ行きやがった!?」
次の瞬間、少年の背後に剣士が姿を現した。少年はまだ気付いていない。翔は咄嗟に叫んだ。
「え!?」
間一髪。少年は前方に飛び、剣士の攻撃をかわした。
「ふぅ、あぶねぇ、あぶねぇ……」
「ほぅ、よくかわせたな小僧。だが、次はそうは行かんぞ……」
剣士は、再び剣を腰に収めた。
「なるほど……居合か……ならこれでどうだ!!」
三人組の時と同じく空中に飛び上がる少年。
「刺伝槍式! 雷震槍法!!」
「あの馬鹿!!」
その声と同時に、翔の横を風が駆け抜け、シャオリンの姿が消えた。
「はい!! そこまで!!」
つい今まで翔の隣にいたシャオリンが、二人の間に割って入り、左手で少年の槍を受け止め、右手で剣士の剣を持つ拳を押さえていた。
「何!?」
「なんだ!?」
突然の状況に二人の動きが止まった。
「何だよあんた! 邪魔すんなよ!!」
「あんたねぇ、相手見て喧嘩売りなさいよ!」
少年を一喝すると、シャオリンは剣士の顏を見つめた。
「あんたも、これ以上騒ぎを大きくしたくないでしょ……」
シャオリンの真意を察したのか、剣士は構えを解いた。
「いいだろう……この勝負、貴殿に預けよう……」
「おい! なに勝手に話進めてんだよ!!」
「いいからあんた、ちょっと黙ってなさい!」
少年を睨むシャオリン。
「貴殿、名は?」
「え? あぁ、シャオリンよ」
「シャオリンか。憶えておこう」
そう言うと剣士は、三人の男達の横を抜け歩いて行った。
「あ、お頭、ま、待ってください〜」
剣士の後を追いかけ立ち去る三人組。
「おい! ちょっと待てよ! 逃げんのか!! 勝負はまだ着いてねぇぞ!!」
「あーうるさい! あんた! ちょっとこっち来なさい!!」
「な、なにすんだよ! うわっ、ちょと待てよぉ!?」
「あ、ご主人様、待ってオパ!」
シャオリンは後襟を掴み、抵抗する少年を引きずって店の中に入って行った。
翔もリァンホンと店の中に戻ろうとしたその時、剣士と一緒にいた女性がリァンホンを呼び止めた。
「女将さん」
「は、はい!?」
突然呼び止められ、何事かと振り返るリァンホン。
「門徒の者がお騒がせして申し訳ないと、龍炎様がこれを」
女性はそう言うと、小袋をリァンホンに差し出した。
「こ、こんなに!?」
あまりの額に、受け取っていいものか困惑するリァンホン。
「龍炎様のお気持ちですから、お受け取り下さい」
そう言って、女性は微笑んだ。
「そ、そうですか?」
女性の言葉に促され、リァンホンは小袋を受け取った。
「では、私はこれで。本当に申し訳ありません」
女性は翔たちに軽く頭を下げ、剣士たちの後を追って去って行った。その姿を見届けると、翔とリァンホンは店に戻った。
「手間を掛けさせたな、紫園」
龍炎は紫園に声を掛けた。
「構いません、これも私の務めですから。それより良いのですか、龍炎様? あの者達をそのままにして……」
「うむ、戻ったら罰を与えねばなるまいな」
「いえ、そうではなく……」
「ん? あぁ、あの『シャオリン』と申した者の事か?」
「はい。不意を突かれたとは言え、龍炎様の間合いに易々と入り込むなど、只者ではありません……」
「そうだな。一度手合わせを願いたいものだな」
「龍炎様!?」
龍炎の言葉に驚く紫園。
「龍炎様は女性に甘すぎます……」
頬を膨らませ、不機嫌そうな紫園。
「妬いておるのか?」
「い、いえ、そのような事は決して……」
顔を赤くし、慌てて否定する紫園。
「ははははは」
「もぅ、龍炎様の意地悪……」
紫園はまた頬を膨らませた。
白尾
翔が店に戻ると、シャオリンが少年の正面に座り説教していた。オパオパはその隣で、何やら木の実らしい物をかじっている。
「あんたねぇ、あのままやってたら、確実にやられてたわよ」
「そんなの、やって見なけりゃわかんねぇだろ」
勝負を邪魔されて、少年は不機嫌そうだ。翔は少年の隣に座った。
「でも本当に凄かったです。僕、はじめて見ました、あんな戦い」
「だろ? やっぱ、見てる奴はちゃんと見てるんだなぁ〜」
少年は得意気に翔の方を見た。
「そりゃ、上級のアイツらを吹っ飛ばした、あんたの力は確かに認めるわよ。でもね、それは『下級にしてわ』ってだけ。中級や口だけ上級のアイツらならともかく、ちゃんと修行してる連中だったら、今頃どうなってた事か……」
「だから、やってみないと分からないだろって……」
シャオリンは、少年の言葉を遮るように続けた。
「ましてやあの『お頭』って邪剣士、恐らく覇王級でしょうね。あんたとじゃ、格が違いすぎるのよ」
「は、覇王級!? で、でも、アイツの一撃、ちゃんとかわしたぜ?」
少年は『覇王級』と言う言葉に、少し動揺した様だ。
「それは、カケルが叫んだから気付いただけでしょうが。姿見失ってたクセに」
「うっ……」
痛い所を突かれて黙り込む少年。
「第一、わたしに受け止められてるようじゃ、まだまだなのよっ」
シャオリンは少年に顔を近づけ、指で少年の額を弾いた。
「いてっ! 何すんだよぉ……」
「そう言うシャオリンさんも凄いですね。あんな一瞬で二人の間に割って入るなんて」
「あぁ、そう言やそうだな」
「まぁあの剣士、本気出してなかったし、相当手を抜いてたからねぇ。じゃなきゃ、わたしも間合いに入れなかったし……たまたまよ、たまたま」
「それにしても、お二人共凄かったですよ。僕ドキドキしました。え〜と……」
翔は少年の顔を見た。
「ん? あぁそう言えば、まだ名前言ってなかったな。俺の名前は『白尾』ってんだ。よろしくな」
「『輝馬 翔』です。こちらこそ、よろしくお願いします。それとあのぉ……」
「ん? 何だ? カケル」
「さっきからお二人が話してる『○○級』って、何なんですか?」
「はぁ? お前知らねぇのか? 普通、ガキでも知ってるぜ、そんな事」
「カケルはちょっと事情があってね。世間のことあんまり知らないのよ……ね? カケル」
シャオリンが翔に目配せした。どうも余計なことは言うなと言いたい様だ。
「は、はい。そうなんです……」
翔はシャオリンの話に合わせた。
「ん?……まぁいいや。いいか良く聞いとけよ。等級ってのはなぁ……」
この世界では、武道を志す者の技量を等級と呼ばれる階級で分けており、下から『下級』『中級』『上級』『最上級』『覇王級』の5階級があり、修練を積み試験に合格したもののみが、その称号を手にすることができると言う。各階級は、さらに細かく幾つかの等級に分かれているそうだ。
中でも覇王級は近年になってその存在が公のものとなったため、試験に合格した者もそれほど多くなく、貴重な存在らしい。
「どうだ分かったか?」
「あ、はい。何となくですけど……」
「おいおい、大丈夫か?」
白尾は呆れた様な顔で、翔を見た。
「そう言えば、シャオリンさんは何級なんですか?」
「ご主人様も覇王級オパ」
「え!?」
驚く白尾。話の流れ的に大体想像は付くと思うのだが。
「まぁ、一応ね」
「あ、あんた……じゃなくて、あなた様も覇王級であら……あらせ……」
使い慣れない敬語を喋ろうとして、噛みまくっている。
「な、何よ急に。気持ち悪いわね」
「お、御見それしました! 姐さん!!」
そう言うと、白尾は床に土下座した。
「ちょ、何よその『姐さん』って。やめてよ、恥ずかしいじゃないの」
シャオリンは土下座する白尾の頭を叩いた。
そんなこんなで、シャオリンの説教は小一時間続き、翔たちの席にまで陽の光が差し込んできた。
「おっと行けねぇ、もうこんな時間じゃねぇか。俺まだ用事あったんだ」
槍を手に取り、席を立つ白尾。
「んじゃ。姐さん、カケル、またな!」
そう言い残し白尾さんは、店を出て行った。
「だから、その呼び方やめなさいって言ってるでしょう!!……まったく……」
「なんか騒がしい人でしたね……」
翔たちの周りは、一気に静かになった。
「あー! あの人からお代もらうの忘れてたー!! お、お客さーん!!」
仲居が、慌てて白尾を追いかけて行った。
【次回予告】
玄勃派長を始め、僕が元の世界に戻れる方法を調べてくれているが、一向に情報は集まらなかった。
僕は元の世界に本当に戻れるのか? 戻れなかったら僕は……
次回 第漆話 【翔の決意】
剣って……それ、わたしの専門じゃないんだけど……