この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。
第漆話 【翔の決意】
前回までのあらすじ
神社の石段から転がり落ちたはずの翔は、気が付くとこの『江湖』の世界にいた。
そこで出会った人々の協力を得、玄勃派で暮らし始める翔。
そして一月程が過ぎようとしていた……
落胆
翔が元の世界に戻れる方法が無いかと、みんなが色々調べてくれていた。
今日はその報告のため、玄勃派長のところに集まっていた。
「北海船頭や玄勃派を訪れた旅の者達から、それとなく聴いて見てはいるのだが、これと言った目ぼしい情報はなくてね……」
心苦しそうに話し始める玄勃派長。
「かと言って、カケルの素性を明かすと言うのも、事情が事情だけにの……」
「そうですか……」
やはり翔が別の世界から来たことは、公には出来ない様だ。
「私の方で言伝えや古文書を調べたところ、民話にそれらしきものがあったのですが……」
「え!? 本当ですか、ユンさん!?」
「いや、やはり根拠の無い作り話で、関わりは無いかと」
「そうですか……」
「済まぬな、カケル。気を持たせてしまって」
「あ、いえ」
「わたしも、今のところ手掛かり無しね。あとは、神武門の爺さん達に聞いてみるって手もあるけど……」
「それは止めておいた方がいいだろう、シャオリン。異世界からの来訪者など、要らぬ騒ぎになり兼ねん。特にチーグオ殿にはな」
「そ、そうね……あの爺さんだったら、何しでかすか分からないわねぇ……」
「わしも帰還符の術を応用して何とか出来ぬかと調べてみはおるのじゃが、別の世界へとなるとどうにものぉ……ゴホッゴホッ」
「さすがに、こればかりはどうすることも出来んのでな。済まないねぇ、カケル。
「謝らないで下さい、派長様。僕の方こそ、皆さんにこんなにまでして貰って、感謝してるんですから」
「まぁ、ここで暗くなっていても始まるまい。引き続き皆も協力を頼むよ」
これと言った情報が得られぬまま、翔たちは玄勃派長の下を後にした。
道すがら、ため息を漏らす翔。
「はぁ……」
「そんなに落ち込みなさんなって。ばぁちゃん達だって、カケルのこと思って八方手を尽くしてくれてるんだからさ」
「それは分かってるんですけど……やっぱり現実って厳しいなぁ……っと……」
「ほら、元気出しなさいって。帰って晩御飯食べて、お腹一杯になって寝ちゃえば、嫌な事みんな忘れちゃうって♪」
シャオリンは、翔を励まそうとしているようだ。
「シャオリンさんじゃあるまいし、僕はこう見えてもデリケートなんですから……」
「で、でりけぇと? なにそれ?」
「何でもないです」
翔が素っ気無くそう答えると、シャオリンは甘えるように翔の背中に抱きついた。
「なによ〜おしえてよ〜カケルちゃ〜ん♪」
「ちょっと……は、恥ずかしいじゃないですか……」
「あ、カケル。赤くなっちゃってぇ、カワイイ〜♪」
そうやってシャオリンに遊ばれながら、翔は家に戻った。
「それにしても、このまま元の世界に戻れなかったら、僕どうなっちゃうんだろう……この世界で暮らすなら、やっぱり武術を覚えておいた方がいいのかなぁ……うーん……」
翔の決意
――――数日後の朝――――
「え? 武術を覚えたい? 何でまた急に??」
シャオリンの箸を持つ手が止まった。オパオパも目を皿のようにして翔の方を見ている。
「いつ元の世界に戻れるか分からないし、もしかしたらこのままずっと、この世界で暮らすことになるかも知れないので……」
「それはそうだけど……別に武術を覚えなくても……」
「今の僕だと、狼にすら襲われてもどうすることも出来ないし、いつもシャオリンさんやオパオパと一緒に出歩くのも……」
「わたし達と一緒じゃ、恥ずかしいってこと?」
ご飯を口に運びながら、翔に問いかけるシャオリン。
「あ、いえ、そうじゃないんですけど……一応僕も男なんで……その……」
「カケルはこの前、狂牛にも追いかけられてたオパ」
「い、言うなよオパオパ……」
うつむく翔を見て、シャオリンは笑みを浮かべた。
「ふ〜ん……一人前の男になりたいってことかぁ〜ふふふ♪」
「わ、笑わないで下さいよ……」
「あ、ごめんね♪」
「それに……前、白尾さん達の戦いを見て、あんな凄いこと僕にも出来るのかなぁってちょっと思って……」
「ふーん……」
シャオリンは翔の目を見つめると、箸を置いた。
「分かったわ。いいわよ」
「本当ですか?」
「ええ、いいわよ。ただし、あなたの特性を見てからね」
「特性?」
「そう。一口に武術って言っても、人それぞれ性格が違うみたいに、武術にもいろんな系統があるのよ。例えば、あの白尾。元々槍手の特性を持っているから、あそこまで槍を操ることが出来るわけ。もし白尾が刀や剣を使ったとしても、あそこまで上達することは無いわね」
「そうですよね。得手不得手ってありますもんね」
「まぁ、そう言う事ね。だから特性を見て、わたしがカケルに侠客としての素質があると思ったら、武術を教えてあげるわ」
「分かりました。僕がんばります」
「んじゃ、とりあえず……ご飯食べちゃいましょ♪」
食事の後片付けが終わると、シャオリンは『ちょっと準備するから、表で待っててね♪』っと言い残し、物置に何かを取りに行った。
家の外でしばらくオパオパと待っていると、シャオリンが大きな箱を抱えてやって来た。
「シャオリンさん、その箱何ですか?」
「これ? うちの居候たちの置き土産ってとこかしらね♪」
「そう言えば、誰かと暮らしてたんでしたね」
「まぁね。もう随分昔の話よ」
「女性が一緒に暮らすって……もしかして……」
「ん? 何か言った?」
「あ、いえ、何でもないです」
翔のそんな妄想を他所に、シャオリンは箱の中身をごそごそと出し始めた。
「んーと……刀と……剣と……槍と……これは要らないか……あとは、弓と……」
「あれ? その杖みたいなのはいいんですか?」
「あぁこれ? これは医職だから……」
「医職? 医者も戦うんですか?」
「医者と言っても病気を治したりするわけじゃなくて、養癒法術に長けた職のことね。まぁ医療にも転用できるから、医学として学ぶ人もいるけどね。ほら、白尾とはじめて会った時に、邪剣士と一緒に女の人が居たでしょ」
「あぁ、あの女の人ですか。そう言えば杖持ってたなぁ……」
「医職は元々持ってる血統みたいなのもあるから、鍛えたからって強くなるわけじゃないのよね。そりゃ、全くやらないよりはマシだけど」
「へぇ〜」
そう説明しながら、出した物を並べていった。
翔の目の前には、剣・刀・槍・弓、そして苦無のような二本の小刀が置かれている。
「とりあえず、好きなの持って、適当に使ってみて♪」
「え? 教えてくれるんじゃないんですか?」
「どこを持ったら良いかぐらい、見れば分かるでしょ?」
「いや、それは分かりますけど……」
「なら適当に。自分が思うようにやってみて♪」
「は、はい……」
翔は良くわからないまま刀を手に取り、適当に構えた。
「こ、こうかな?」
思いつくまま刀を構えたり振ったりしている翔を、シャオリンは薪割り用の切り株に腰を下ろし、頬杖をついて眺めていた。オパオパもその横で座って翔を見ている。
「それくらいでいいわ。んじゃ次、剣振ってみて」
翔はシャオリンに言われるがまま剣に持ち替え、再び適当に振り出した。
「いいのかなぁ……こんなんで……」
そうやって一通り全ての武器を使い終わると、シャオリンが立ち上がった。
「うん。まぁまぁね。で、どれが一番楽だった?」
「え?」
突然の問い掛けに、意味が分からない翔。
「どれが一番自分の思うように使えたかってことよ」
「あ、あぁ。そ、そうですね……やっぱり剣かなぁ……」
「なら、カケルは剣士の特性があるって事ね」
「えぇ!? こんなんで分かるんですか?」
「そうよ。武器なんて所詮道具なわけ。道具をどう使うかは人それぞれでしょ?」
「ええ、まぁ……」
「何も知らされてないのに、どう扱えば良いか分かって、一番使いやすかった武器が、カケルに一番合ってるって事よ」
「確かにそれはそうですけど……」
「あとは、その特性をどう引き出し、伸ばすかだけど……」
シャオリンは、ちょっと困った顔をした。
「何か問題でも?」
「わたしってさぁ、専門が刀なのよねぇ。だから剣の方はちょっとね……」
「え? なら、初めから言ってくれれば、刀にしたのに……」
「それじゃ、カケルのためにならないじゃない」
「でも、シャオリンさんが教えてくれなかったら、僕どうすればいいんですか?」
「んー。どうしよっか……」
「そんなぁ……」
翔はシャオリンに相談したことを後悔した。
【次回予告】
シャオリンさんが注文した武器を受け取るため、鍛冶屋に向かった僕は、お使いを頼まれる。
快く引き受けたのはいいんだが、ちょっと困ったことに……
次回 第捌話 【初めてのお使い】
えー!? そんなの聞いてないですよ……