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第玖話 【狼の牙】[熱血江湖物語]  
詳細/おすすめ(3777/0) | ソーシャルブックマーク(0)  2013/05/23 19:48

この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。

第玖話 【狼の牙】

 


前回までのあらすじ


 神社の石段から転がり落ちたはずの翔は、気が付くとこの『江湖』の世界にいた。

 翔は今後のことも考え、シャオリンやユンの指導の下、武術の鍛錬を開始した。

 そんなある日、翔はお使いを頼まれるが、それはシャオリンの作戦であった。


狼親分


 「ふぅ、これで十本かな? あとは、狼親分の牙か……」

 翔は気絶させた狂牛から角を切り落とし、必要な数を揃えた。

 「そう言えば狼親分ってどこにいるんだっけ?」

 肝心の居場所を聞くのを忘れていた翔。

 「狼親分って言うくらいだから、狼の群れの辺りに行けばいるかな?」

 とりあえず、翔は狼の群れが良く現れる場所を探すことにした。 

 

 そのころ、シャオリンに翔の監視を任されたオパオパが先回りし、狼の群れの近くに隠れ、翔が現れるのを待っていた。

 「遅いオパね……何してるオパ……はっ! もしかして反対の群れのところに行ったオパか!?」

 翔がなかなか現れないので、焦るオパオパ。

 「も、もし反対の方に行っちゃってたら、ボクご主人様に何されるか……あわわわわ……」

 最悪の事態を想像し、脅えるオパオパ。

 「で、でもカケルが出てった方からだと、こっちに来るはずオパ。ぜ、絶対来るオパ」

 そう自分に言い聞かせ、必死で恐怖に打ち勝とうとしているオパオパの前に、あちこち狼親分を探しながら歩き回っていた翔がやってきた。

 「あっ! カケル オパ!! 助かったオパ……」

 オパオパは最悪の事態を回避出来たようだ。

 

 「ん? あそこにいるのが狼親分?」

 狼の群れから少し離れて、普通の狼より一回り大きく、黒い毛並みをした狼がいるのが見えた。どうやらあれが狼親分らしい。

 「うわ……なんか強そうだな……大丈夫かなぁ……」

 翔は草むらに身を潜ませながら、気付かれないよう徐々に狼親分の方へ近付いて行った。狼親分は取り巻きに数匹の狼を従え、辺りを警戒している。

 「ガルゥゥゥゥゥゥ」

 狼親分が翔の気配に気付き、狼たちが一斉に騒ぎ出した。翔は立ち上がり剣を構えた。

 「ガオォォォォォォ」

 狼親分の雄叫びと共に、狼たちが襲い掛かってくる。咄嗟に身を引いて狼の攻撃をかわす翔だったが、今までと少し感覚が違った。前に襲われたときは何も出来なかったが、何故か狼たちの動きが良く分かる。これが修行の成果だろうか。

 「い、今の感じ……これなら行ける!!」

 翔は剣を構え直し、打って出た。

 「でやあぁぁぁぁ!」

 「キャウン!」

 「やあぁぁぁぁ!」

 「クウゥン!」

 次々に攻撃をかわし、狼たちを薙ぎ払って行く。

 「グウウゥゥゥゥゥ……」

 取り巻きの狼を倒された事で、狼親分が動き出した。

 「いよいよ親分のお出ましか……」

 「グウウゥゥゥゥゥ……」

 低い唸り声を上げながら、ゆっくりと近付いてくる狼親分。

 「グァオォォォォォォ」

 すると狼親分は突然走り出し、真っ直ぐ翔に向かってきた。

 「は、速い!!」

 狼親分はその体格とは裏腹に、素早い動きで剣をかわし、翔に飛び掛かる。

 「うわぁ!!」

 翔はすぐさま体勢を立て直し、何とか狼親分の攻撃をかわせたが、爪で袖を切り裂かれていた。

 「ハァ、ハァ……ダメだ。普通の狼たちとは動きも早さも違う。このままでは逃げるどころか、やられてしまう」

 「グウウゥゥゥゥゥ……」

 一旦間合いを取るように後退し、翔の様子を窺う狼親分。

 「ど、どうする……」

 その時、ふとユンの言葉が頭をよぎった。

 

―――『自分の気を広げ、相手の気を感じろ。そうすれば相手の動きに惑わされず、先を読むことも出来るようになる。』―――

 

 「やってみるか……」

 翔は目を閉じ、心を落ち着かせ、周りの気を感じる事に集中した。すると、真っ暗だった頭の中に、ぼんやりと周りの景色や狼親分の姿が浮かび上がってきた。

 「グウウゥゥゥゥゥ……」

 じりじりと詰め寄ってくる狼親分。翔はその動きを気を通して感じていた。

 「グァオォォォォォォ」

 再び翔に襲い掛かる狼親分。

 「いまだ!!」

 翔は目を開き、渾身の力を込めて剣を振った。

 「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 すると剣が輝き、放たれた閃光が狼親分を襲った。

 「グオォォォォォォ」

 斬圧に弾き飛ばされた狼親分は何とか立ち上がろうとしていたが、そのまま崩れ落ちた。

 「や、やった……狼親分を倒した……」

 「それに……今の光って……もしかして……」

 翔は無意識の内に武功を放っていたようだ。

 「これが武功の感覚……」

 翔は初めての武功の感覚に少し興奮していた。

 

 「信じられないオパ……カケルは武功まで使えるようになってたオパか……」

 翔の様子を見ていたオパオパの背後から、声が聞こえた。

 「どうにか倒せたようね」

 「オパ!? ご、ご主人様!? い、いつからそこに!?」

 「そうねぇ……『あわわわわ……』くらいからかしら……」

 「…………」

 オパオパの時間が止まった。

 「さ、わたしたちもカケルが戻る前に家に帰るわよ!」

 「あ、まってオパ! ご主人様〜」

 シャオリンたちは翔が立ち去るのを見届けると、家に戻って行った。

 


ご褒美


 翔はフェイウェンに捕ってきた物を渡した。

 「はいこれ。狂牛の角と狼親分の牙です」

 「お、おめぇ、本当に捕ってきちまったのか? 大したもんだ……」

 フェイウェンは自分が言い出したのにも拘らず、驚いている。

 「約束通り『賢鉄石』を渡してくれますよね?」

 「おぅ、もちろんだ。ほらこれが賢鉄石だ」

 翔は賢鉄石を受け取り、ダオジャンの下に向かった。

 

 「ダオジャンさん、いま戻りました」

 「お? カケル遅かったな。賢鉄石はあったか?」

 「はいこれ。ちゃんと貰ってきましたよ」

 翔はダオジャンに賢鉄石を渡した。

 「そうか……取って来れたか……」

 ダオジャンは感慨深げに賢鉄石を受け取った。

 「そうだ、ちょうどよかった。いま武器が出来たところだ、持って行きな」

 「え? 賢鉄石がいるんじゃ……」

 「あっ。あぁそれはその……なんだ……つまり……」

 失言に気付き慌てるダオジャン。

 「どう言う事か説明してもらえますか? ダオジャンさん」

 「あ、じ、実はよ……」

 翔はダオジャンから事の経緯を聞いた。

 

 「シャオリンさんが?」

 「あぁ。おめぇに自信を付けさせたいから、手伝ってくれねぇかって頼まれてなぁ……」

 「…………」

 「俺もよ、はじめ言ったんだぞ。狼親分はやりすぎじゃねぇかってよ。でもよ、それくらいやらなきゃ、カケルは本気出さないだろうって言ってな……」

 「…………」

 「怒るのも無理ねぇよなぁ……騙してた事は俺も謝る。でもよ……シャオリンも悪気があってやったわけじゃねぇんだ。許してやれよ?」

 「え、ええ……」

 翔は武器を受け取り家に戻った。

 

 家に帰ると、既にシャオリンたちが戻ってきていた。

 「あ、カケルお帰り」

 「お帰りオパ」

 「ただいま。シャオリンさん、オパオパ」

 何事も無かったかのように、翔を迎えるシャオリンたち。

 「これ、頼まれてた武器です」

 「あ、ありがとね」

 武器を受け取るシャオリンに、翔は声を掛けた。

 「シャオリンさん」

 「なに?」

 「ありがとうございます」

 翔はシャオリンに頭を下げた。

 「え? なに? いきなりどうしたの??」

 「ダオジャンさんから全部聞きました」

 「え!? な、何のこと?(あのオヤジ……)」

 とぼけるシャオリン。

 「お陰で僕、ちょっと大変だったけど狼親分も倒せたし、武功の感覚もぼんやりとですけど分かったし、とにかくありがとうございます」

 「あ、うん、まぁ……カケルが自身持ってくれたなら、それでいいかなぁ……」

 「でも、どうして僕のためにこんな事まで?」

 「それは……その……」

 「それは?」

 「カケルが成長するの、わたしもちょっと楽しみだしね……」

 照れくさそうにシャオリンは言った。

 「シャオリンさん……」

 「あ、そうだ! はいこれ。カケルにあげるわ」

 シャオリンは赤くなった顔を誤魔化すように、慌てて翔が受け取ってきた武器を差し出した。

 「え? それ、シャオリンさんが頼んでた武器じゃ……」

 「いいから。開けてみて♪」

 翔は箱を開け、巻かれている布を解いた。すると、布の中から真新しい剣が顔を出した。

 「こ、これって……」

 「これはカケルの剣よ。ちゃんと修行してたご褒美ね」

 「あ、ありがとうございます! シャオリンさん!!」

 カケルは再びシャオリンに頭を下げた。


【次回予告】


 ダオジャンさんのお使いで宿屋に行った僕は、最近薪の質が落ちて、街のみんなが困っていることを知る。

 どうして急に薪の質が落ちたんだろう……

 次回 第拾話 【薪を取り戻せ!】

 シャ、シャオリンさん……目が怖いです……

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