この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。
第玖話 【狼の牙】
前回までのあらすじ
神社の石段から転がり落ちたはずの翔は、気が付くとこの『江湖』の世界にいた。
翔は今後のことも考え、シャオリンやユンの指導の下、武術の鍛錬を開始した。
そんなある日、翔はお使いを頼まれるが、それはシャオリンの作戦であった。
狼親分
「ふぅ、これで十本かな? あとは、狼親分の牙か……」
翔は気絶させた狂牛から角を切り落とし、必要な数を揃えた。
「そう言えば狼親分ってどこにいるんだっけ?」
肝心の居場所を聞くのを忘れていた翔。
「狼親分って言うくらいだから、狼の群れの辺りに行けばいるかな?」
とりあえず、翔は狼の群れが良く現れる場所を探すことにした。
そのころ、シャオリンに翔の監視を任されたオパオパが先回りし、狼の群れの近くに隠れ、翔が現れるのを待っていた。
「遅いオパね……何してるオパ……はっ! もしかして反対の群れのところに行ったオパか!?」
翔がなかなか現れないので、焦るオパオパ。
「も、もし反対の方に行っちゃってたら、ボクご主人様に何されるか……あわわわわ……」
最悪の事態を想像し、脅えるオパオパ。
「で、でもカケルが出てった方からだと、こっちに来るはずオパ。ぜ、絶対来るオパ」
そう自分に言い聞かせ、必死で恐怖に打ち勝とうとしているオパオパの前に、あちこち狼親分を探しながら歩き回っていた翔がやってきた。
「あっ! カケル オパ!! 助かったオパ……」
オパオパは最悪の事態を回避出来たようだ。
「ん? あそこにいるのが狼親分?」
狼の群れから少し離れて、普通の狼より一回り大きく、黒い毛並みをした狼がいるのが見えた。どうやらあれが狼親分らしい。
「うわ……なんか強そうだな……大丈夫かなぁ……」
翔は草むらに身を潜ませながら、気付かれないよう徐々に狼親分の方へ近付いて行った。狼親分は取り巻きに数匹の狼を従え、辺りを警戒している。
「ガルゥゥゥゥゥゥ」
狼親分が翔の気配に気付き、狼たちが一斉に騒ぎ出した。翔は立ち上がり剣を構えた。
「ガオォォォォォォ」
狼親分の雄叫びと共に、狼たちが襲い掛かってくる。咄嗟に身を引いて狼の攻撃をかわす翔だったが、今までと少し感覚が違った。前に襲われたときは何も出来なかったが、何故か狼たちの動きが良く分かる。これが修行の成果だろうか。
「い、今の感じ……これなら行ける!!」
翔は剣を構え直し、打って出た。
「でやあぁぁぁぁ!」
「キャウン!」
「やあぁぁぁぁ!」
「クウゥン!」
次々に攻撃をかわし、狼たちを薙ぎ払って行く。
「グウウゥゥゥゥゥ……」
取り巻きの狼を倒された事で、狼親分が動き出した。
「いよいよ親分のお出ましか……」
「グウウゥゥゥゥゥ……」
低い唸り声を上げながら、ゆっくりと近付いてくる狼親分。
「グァオォォォォォォ」
すると狼親分は突然走り出し、真っ直ぐ翔に向かってきた。
「は、速い!!」
狼親分はその体格とは裏腹に、素早い動きで剣をかわし、翔に飛び掛かる。
「うわぁ!!」
翔はすぐさま体勢を立て直し、何とか狼親分の攻撃をかわせたが、爪で袖を切り裂かれていた。
「ハァ、ハァ……ダメだ。普通の狼たちとは動きも早さも違う。このままでは逃げるどころか、やられてしまう」
「グウウゥゥゥゥゥ……」
一旦間合いを取るように後退し、翔の様子を窺う狼親分。
「ど、どうする……」
その時、ふとユンの言葉が頭をよぎった。
―――『自分の気を広げ、相手の気を感じろ。そうすれば相手の動きに惑わされず、先を読むことも出来るようになる。』―――
「やってみるか……」
翔は目を閉じ、心を落ち着かせ、周りの気を感じる事に集中した。すると、真っ暗だった頭の中に、ぼんやりと周りの景色や狼親分の姿が浮かび上がってきた。
「グウウゥゥゥゥゥ……」
じりじりと詰め寄ってくる狼親分。翔はその動きを気を通して感じていた。
「グァオォォォォォォ」
再び翔に襲い掛かる狼親分。
「いまだ!!」
翔は目を開き、渾身の力を込めて剣を振った。
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
すると剣が輝き、放たれた閃光が狼親分を襲った。
「グオォォォォォォ」
斬圧に弾き飛ばされた狼親分は何とか立ち上がろうとしていたが、そのまま崩れ落ちた。
「や、やった……狼親分を倒した……」
「それに……今の光って……もしかして……」
翔は無意識の内に武功を放っていたようだ。
「これが武功の感覚……」
翔は初めての武功の感覚に少し興奮していた。
「信じられないオパ……カケルは武功まで使えるようになってたオパか……」
翔の様子を見ていたオパオパの背後から、声が聞こえた。
「どうにか倒せたようね」
「オパ!? ご、ご主人様!? い、いつからそこに!?」
「そうねぇ……『あわわわわ……』くらいからかしら……」
「…………」
オパオパの時間が止まった。
「さ、わたしたちもカケルが戻る前に家に帰るわよ!」
「あ、まってオパ! ご主人様〜」
シャオリンたちは翔が立ち去るのを見届けると、家に戻って行った。
ご褒美
翔はフェイウェンに捕ってきた物を渡した。
「はいこれ。狂牛の角と狼親分の牙です」
「お、おめぇ、本当に捕ってきちまったのか? 大したもんだ……」
フェイウェンは自分が言い出したのにも拘らず、驚いている。
「約束通り『賢鉄石』を渡してくれますよね?」
「おぅ、もちろんだ。ほらこれが賢鉄石だ」
翔は賢鉄石を受け取り、ダオジャンの下に向かった。
「ダオジャンさん、いま戻りました」
「お? カケル遅かったな。賢鉄石はあったか?」
「はいこれ。ちゃんと貰ってきましたよ」
翔はダオジャンに賢鉄石を渡した。
「そうか……取って来れたか……」
ダオジャンは感慨深げに賢鉄石を受け取った。
「そうだ、ちょうどよかった。いま武器が出来たところだ、持って行きな」
「え? 賢鉄石がいるんじゃ……」
「あっ。あぁそれはその……なんだ……つまり……」
失言に気付き慌てるダオジャン。
「どう言う事か説明してもらえますか? ダオジャンさん」
「あ、じ、実はよ……」
翔はダオジャンから事の経緯を聞いた。
「シャオリンさんが?」
「あぁ。おめぇに自信を付けさせたいから、手伝ってくれねぇかって頼まれてなぁ……」
「…………」
「俺もよ、はじめ言ったんだぞ。狼親分はやりすぎじゃねぇかってよ。でもよ、それくらいやらなきゃ、カケルは本気出さないだろうって言ってな……」
「…………」
「怒るのも無理ねぇよなぁ……騙してた事は俺も謝る。でもよ……シャオリンも悪気があってやったわけじゃねぇんだ。許してやれよ?」
「え、ええ……」
翔は武器を受け取り家に戻った。
家に帰ると、既にシャオリンたちが戻ってきていた。
「あ、カケルお帰り」
「お帰りオパ」
「ただいま。シャオリンさん、オパオパ」
何事も無かったかのように、翔を迎えるシャオリンたち。
「これ、頼まれてた武器です」
「あ、ありがとね」
武器を受け取るシャオリンに、翔は声を掛けた。
「シャオリンさん」
「なに?」
「ありがとうございます」
翔はシャオリンに頭を下げた。
「え? なに? いきなりどうしたの??」
「ダオジャンさんから全部聞きました」
「え!? な、何のこと?(あのオヤジ……)」
とぼけるシャオリン。
「お陰で僕、ちょっと大変だったけど狼親分も倒せたし、武功の感覚もぼんやりとですけど分かったし、とにかくありがとうございます」
「あ、うん、まぁ……カケルが自身持ってくれたなら、それでいいかなぁ……」
「でも、どうして僕のためにこんな事まで?」
「それは……その……」
「それは?」
「カケルが成長するの、わたしもちょっと楽しみだしね……」
照れくさそうにシャオリンは言った。
「シャオリンさん……」
「あ、そうだ! はいこれ。カケルにあげるわ」
シャオリンは赤くなった顔を誤魔化すように、慌てて翔が受け取ってきた武器を差し出した。
「え? それ、シャオリンさんが頼んでた武器じゃ……」
「いいから。開けてみて♪」
翔は箱を開け、巻かれている布を解いた。すると、布の中から真新しい剣が顔を出した。
「こ、これって……」
「これはカケルの剣よ。ちゃんと修行してたご褒美ね」
「あ、ありがとうございます! シャオリンさん!!」
カケルは再びシャオリンに頭を下げた。
【次回予告】
ダオジャンさんのお使いで宿屋に行った僕は、最近薪の質が落ちて、街のみんなが困っていることを知る。
どうして急に薪の質が落ちたんだろう……
次回 第拾話 【薪を取り戻せ!】
シャ、シャオリンさん……目が怖いです……