この物語はフィクションであり、登場する人物・組織名・地名等、実際のゲームと同一の名称が登場する場合がありますが、一切関係はありません。
第拾話 【薪を取り戻せ!】
前回までのあらすじ
神社の石段から転がり落ちたはずの翔は、気が付くとこの『江湖』の世界にいた。
そこで出会った人々の協力を得、玄勃派で暮らし始める翔。
武術の修行を開始した翔だが、修行の成果が徐々に現れ始めていた。
街の悩み事
――――玄勃派 鍛冶屋――――
「こんにちは〜ダオジャンさん」
「おぅ! カケルじゃねぇか。今日は何の用だ?」
「強化石の買取りお願いしたいんですけど」
「おぅ、そうか。済まねぇが、ちょっと待っててもらえねぇか? いま手が放せねぇんだ」
「いいですよ、急いでませんから」
「お、そうだ。待ってるついでと言っちゃ何だが、リァンホンのところに行って薪を貰ってきてくんねぇかなぁ?」
「いいですけど、薪ならフェイウェンさんのところに無いんですか?」
「あいつのとこだと、何かと面倒だろ?」
「……確かに……。じゃぁ、ちょっと貰ってきますね」
「おぅ! わりぃな、頼んだぜ!」
翔は鍛冶屋を出て、宿屋に向かった。
宿屋に着くと、リァンホンが笑顔で出迎えた。
「こんにちは、リァンホンさん」
「あら、カケルさん。いらっしゃい♪ お一人ですか?」
「あ、いえ、ダオジャンさんが薪を少し分けて欲しいって言ってるんですけど……」
「あら、また? これで何度目かしら……ちゃんと後で請求しなきゃね♪」
そう言いながらも、何故か笑顔のリァンホン。
「あ、でも……大丈夫かしら……」
「どうかしたんですか?」
「あ、いえ。分けてあげるのは構わないんだけど……ちょっとね。見てもらえば分かると思うけど……」
リァンホンはそう言うと、薪をいくつか手に取り翔に見せた。
「この薪どう思います?」
「湿気ってますねぇ……っと言うか、生乾きみたいな……それに太さも長さもバラバラだし……」
「そうなんですよ。最近こんな薪しか売ってなくて……火の点きも悪いし、点いたら点いたですぐ消えちゃうし、しかも薪の値段も高くなってて、みんな困ってるんですよね……」
「大変ですねぇ……でも、どうして急に薪の質が落ちたんでしょう?」
「さぁ……フェイウェンさんなら、何か知っているかもしれませんけど……」
「そうですね。後でちょっと寄ってみます」
翔は薪をダオジャンに届けると、フェイウェンのところに向かった。
「ん? 薪の質? おぉ! それよそれ! それで俺も困ってんだよ」
「そうなんですか?」
「俺も業者に、もっと良い薪を入れてくれって頼んでるんだがよ、こんな薪しか寄こしてこねぇんだよ」
薪を手に愚痴をこぼすフェイウェン。
「リァンホンやダオジャンは、仕事柄薪が大量に必要だからなぁ。多少高くて質が悪くても渋々買っちゃくれるんだが、一般の客の出が悪くてなぁ……本当にどうにかして欲しいぜ」
そう言うとフェイウェンは、薪を放り投げた。
―――― 夕方 ――――
翔は夕飯を食べながら、街で聞いた事をシャオリンに話していた。
「ふ〜ん。そんな事になってるのね」
オパオパは翔の隣に座って、相変わらず何かカリカリかじっている。
「そう言えばこの前、木こりのおっちゃんが仕事辞めさせられたって、ぼやいてたわねぇ……」
「辞めさせられた?」
「なんでも伐採場の棟梁が変わったらしくてさぁ、意見したら、いきなり解雇されたらしいのよ。他にも嫌がらせされて、自分から辞めちゃったりする人もいるみたいよ」
「それは酷いですねぇ……」
「まぁ、意見の食い違いって奴だから、良くある話じゃあるんだけどね」
シャオリンの話を聞き、翔は考え込んだ。
「どうかしたオパ?」
オパオパが翔の顔を覗きこむ。
「ああ、木こりの人達が解雇されてるのと、薪の質が悪くなったのって何か関係あるのかなぁって思って……」
その様子にシャオリンが釘を刺した。
「カケル……あんた、あんまり変なことに首突っ込むんじゃないわよ?」
「え、ええ……」
一応そう返事をしたものの、気になる翔であった。
悪徳木こり
次の日、翔はシャオリンの話がどうも気になり、伐採場の様子を見に向かっていた。
「良いオパか? ご主人様に黙って来ても……」
「様子を見るだけだから大丈夫だよ」
一人で見に行くつもりだった翔だが、家を出る姿をオパオパが見つけ、付いて来ていた。
「変なことに首を突っ込むなって、言われてなかったオパか?」
「大丈夫だって」
翔はオパオパの忠告も気にせず、伐採場を目指した。
伐採場に着くと、辺りは閑散とし静まり返っていた。
「人がいないなぁ……」
「誰もいないオパねぇ……」
まだ昼過ぎだし、仕事終わりとも思えない。
「よし、あっちに行ってみよう」
「あ、待つオパ」
翔たちは人を探すため、奥に進んだ。すると、伐採場には似つかわしくない窓に鉄柵が付いた小屋が見えた。
「何だろう? あの小屋」
翔は窓からその小屋の中を覗いた。そこには藁がうず高く積んであった。
「何でこんなところに藁が?」
「カケル、こっち開いてるオパ」
オパオパの方に行くと、小屋の扉が少し開いていた。翔たちは小屋の中に入った。
藁の山に近付くと、藁の間から中に何かが積まれているのが見えた。
「これって薪じゃないか。しかも、良質の薪ばっかりこんな沢山……」
その時、小屋の外で声がした。
「誰か来たオパ!」
翔たちは、慌てて身を潜めた。藁の影で様子を窺っていると、木こり逹が薪を担いで入って来た。
「よいしょっと。しかし、棟梁もいいこと考えやがったなぁ。質の悪い薪ばかり流して、薪の卸値釣り上げるなんてな」
「あぁ。で、上がった所で良質の薪流しゃ、ガッポリ儲かるって寸法だ。へへへ」
木こりは翔たちがいる事には気付かず、そのまま話を続ける。
「でもアイツらもバカだよなぁ。言う事聞いてりゃ、タンマリ儲けられたのによ」
「あぁ。『そんな薪流したら信用がなくなっちまう』なんて、ほざいてなぁ……」
「おかげでアイツらの分の仕事まで回されて、いい迷惑だぜ。ま、金になるからいいがな。へへへ」
木こり達はそう話しながら、薪の束を藁に隠した。
「そうか、そう言う事だったのか……」
翔たちは木こりに気付かれないように奥に移動しようとした。
「ん!? だれだ! そこに居るのは!?」
「まずい、見つかった!」
「なんだお前達! そこで何してやがる! 俺達の話聞いてやがったな!!」
「逃げるオパ!!」
翔たちは木こり達の間を走りぬけ、小屋の外に逃げ出した。
「待ちやがれ!!」
木こり達も直ぐに後を追って、外に出て来た。
「皆! 来てくれ! 侵入者だ!!」
その声にどこに居たのか分からないが、他の木こり達が集まって来た。
「囲まれたオパ……」
「ど、どうする……」
「こうなったら戦うオパ!」
「仕方ないな……」
人を傷つけるのは抵抗があったが、翔は仕方なく剣を抜き構えた。
「ほぅ、やろってぇのか? みんな! やっちまえ!!」
木こり達が襲い掛かって来る。
「行くオパ!」
オパオパは飛び蹴りや体当たりで、木こり達を蹴散らしていく。
「やるなぁオパオパ。僕も!」
翔とオパオパは木こり達の攻撃をかわし、手傷を負わせていった。
「調子に乗りやがって! 一斉に掛かれ!!」
今までバラバラに襲って来ていた木こり達が、一斉に飛び掛ってきた。多勢に無勢。一斉に来られては抵抗も虚しく、木こり達に捕まってしまった。
「くそっ……」
「は、放すオパぁーーー!!」
「手間掛けさせやがって。おい! 棟梁のところに連れて行け!」
翔たちは縄で縛られ、棟梁の下に連れて行かれた。
一方その頃、カケルとオパオパの姿が見えない事に気付いたシャオリンは、心当たりを探していた。
「あら、シャオリンさんいらっしゃい♪ 今日はお一人ですか?」
「ねぇリァンホン、カケル見なかった?」
「カケルさんですか? 今日は見えられてませんけど……どうかしたんですか?」
「昼前から姿が見えないのよねぇ……オパオパもいないし……」
「行き先を告げずに出歩くなんて、カケルさんにしては珍しいですねぇ……それはそうと……♪」
シャオリンの様子を見て、微笑むリァンホン。
「何よ、ニヤニヤして……」
「カケルさんを心配しているシャオリンさん、まるで『お母さん』見たいですよ♪」
リァンホンの言葉に顔が赤くなるシャオリン。
「お、お母さん……って、し、失礼しちゃうわね。そこは『お姉さん』と言ってもらいたいわ」
「ハイハイ♪ でも、男の子なんですから、たまにはいいじゃないですか?」
「それはそうだけど……まったく、どこで何してるんだか……」
大刀殺爪!
木こりに捕まった翔たちは、伐採場の一角にある作業小屋に連れて来られた。
小屋の中には奥に机があり、上半身裸の大男が座っていた。どうやらあれが棟梁らしい。
「ん? 侵入者だぁ?」
「へい。どうも薪の件を聞かれちまったようで……棟梁どうしやす? こいつら」
「ここで見聞きしたことを誰にも言わねぇってんなら、返してやってもいいが、どうする? 坊主」
「本当オパか!?」
「信じちゃダメだよオパオパ。嘘に決まってる」
翔は棟梁の顔を睨みつけた。
「なら、仕方がねぇな。おい! こいつらを薪小屋に閉じ込めとけ!」
「悪く思うなよ坊主。聞いちまったお前たちが悪いんだからよ」
「くっ……」
翔たちが連れて行かれそうになったその時、小屋の外で音がした。
「なんだお前!? ぐあぁぁぁ!」
「なんだぁ?」
小屋の扉がゆっくり開き、人影が現れた。
「シャオリンさん!」
「ご主人様ぁ〜!」
「もしやと思って来てみれば……あんた達何やってんのよ……」
「す、すみません……」
「だから余計なことに首突っ込むなって言ったでしょうが……で? あんたが黒幕ってわけ?」
シャオリンが棟梁の方に顔を向けた。
「ん? 何だてめぇは?」
「お前、どうやって入ってきた! 外の奴らはどうした!」
「あぁ、疲れてるみたいで、みんなぐっすり寝てるわよ♪」
どうやら外に居た連中は、みんなシャオリンが片付けてしまった様だ。
「な、なに!? と、棟梁〜!?」
シャオリンの言葉に慌てる木こりだったが、棟梁は慌てる様子も無い。
「ふん。威勢がいい女だな。俺も威勢のいい女は嫌いじゃないぜ」
「あら、ありがと。でもわたし、あんたみたいなゴリゴリのモヒカン男に興味ないのよねぇ」
「お、お前! 棟梁になんて事を……」
棟梁は立ち上がると、シャオリンに近寄って来た。
「言わせておけば、あまり図に乗るんじゃねぇぞ……」
そう言い終わる前に、シャオリンが突き出した拳が棟梁の顔にめり込んだ。
「ぐはっ……」
「と、棟梁!?」
「あら、あまりに気持ち悪かったから、つい手が出ちゃったわ。御免あそばせ♪ オホホホホ」
棟梁の迫力に全く動じていないシャオリン。小馬鹿にされて余ほど頭に来たのだろう、棟梁が真っ赤な顔で起き上がって来た。
「ぬうぅぅぅぅぅ……もぅ勘弁ならねぇ!!」
そう言って、机の後ろから何やら大きなものを取り出した。
「ブロロロロォォォォォォ!!」
けたたましい音が小屋の中に響いた。
「な、何よそれ!?」
「チェ、チェーンソー!?」
何でそんなものがこの世界にあるのか分からないが、それは紛れも無くチェーンソーそのものだった。
「コイツは一昨日、よろず屋で見つけた代物だ。ちょっとでも触れりゃ、掠り傷じゃぁすまねぇぞ!!」
「ブロロロロォォォォォォ!!」
唸りを上げるチェーンソー。
棟梁はチェーンソーを振り回し、シャオリンに襲い掛かった。
「ちょっと、ちょっと! そんなもん小屋の中で振り回したら、危ないでしょうが!!」
襲い掛かるチェーンソーを小屋の中を跳び回り、かわすシャオリン。その度に床や壁がチェーンソーによって砕かれて行く。
「と、棟梁! こ、小屋が崩れちまいますよ!」
「しゃらくせえ! 知ったことか!!」
砕かれた破片が翔たちの方にも飛んでくる。
「オパオパ、この縄を早く解いて! シャオリンさんに加勢しないと!」
「待ってるオパ。いま噛み切るオパ!」
翔の体を縛っている縄を噛み切り始めるオパオパ。
「ちょろちょろと動き回りやがって! じっとしやがれ!!」
「当たり前でしょ! そんなのに当たったら怪我するじゃない!!」
その間にも小屋は見る見る破壊されて行く。
「切れたオパ!」
「よし!」
翔が加勢しようと立ち上がろうとしたその時、チェーンソーに砕かれた柱の破片が、シャオリンの頬を掠めた。
「うっ……」
するとどうしたのか、シャオリンの動きがピタリと止まった。
「へへ。ようやく観念したか?」
その様子を見ていたオパオパが急に騒ぎ出した。
「カケル!! 早く逃げるオパ!!」
「え? でもシャオリンさんが……」
「いいから早く逃げるオパ!! 逃げないと、ボクたちも巻き込まれるオパ!!」
「え? 巻き込まれるって?」
オパオパは何故か相当焦っている。
「……ぁぁ……・」
「ん? てめぇ何ブツブツ言ってやがる」
シャオリンが、うつむいたまま何か呟いている様だ。
「……アー……アタマニキタ……」
「はぁ?」
「……ヨクモ……ワタシノカオニ……キズヲ……」
次の瞬間、シャオリンの体から赤い煙のような物が立ち昇った。
「なんだ?」
シャオリンは腰から護身用の小刀を取り出すと、左脇に構えた。
「あわわわわ……もう間に合わないオパ……」
「え? えぇ?」
オパオパは何かに脅え、ブルブルと震えだす。
「地流刀法……大刀殺爪ーーーーー!!」
シャオリンの刀から放たれた凄まじい閃光と斬撃が、棟梁の体を包み込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーー」
そしてその斬圧は周りにいた翔たちをも巻き込み、小屋全体を包み込んだ。
「うわぁぁぁぁーーーーー」
「オパぁぁぁぁーーーーー」
閃光と爆炎によって、小屋は見る影もなく吹き飛び、一面瓦礫と化した伐採場は、静けさを取り戻していった。
「ぷはっ! た、助かった……オパオパは!?」
「ぷはっ! あぁ……死ぬかと思ったオパ……」
「よかった……オパオパも無事か」
翔たちは瓦礫の中から何とか這い出した。
「そう言えばシャオリンさんは?」
そこに小屋があったであろう場所を振り向くと、シャオリンがうつむいたまま立っていた。その傍には、斬撃でボロボロになった棟梁と木こりが倒れている。
「シャ、シャオリンさん?……」
翔の声にシャオリンが振り向いた。
「ひぃ!」
しかし振り向いたシャオリンの目は殺気を放ち、今にも飛び掛ってきそうな表情であった。
『このままではやられる』と翔が思った次の瞬間、シャオリンの表情が一変した。
「あ〜ん! 頬っぺに傷が付いっちゃったぁ〜!! この傷、跡が残ったらどうしよ〜」
「シャ、シャオリンさん……」
あまりの変わり様にあっけに取られる翔。
「そんなの、ツバ付けときゃ治るオパ……」
辺りは日も傾き、夕焼けが空を赤く染めていた。
【次回予告】
お使いから戻ると、オパオパが苦しそうに倒れていた。
オパオパどうしたんだ!? シャオリンさんはいないし、どうしよう……
次回 第拾壱話 【シャオシャン】
ところで……この散乱してる木の実はなに?